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データセンターを分散配置

新しいかたちのデータセンターを日本中に分散配置しよう (2/2)

連載/データセンターの電力効率、コスト効率を上げるには(2):012年08月21日http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1208/21/news007.html

前回はデータセンターの利用者が多くなれば、冷却用施設などを共用することによるコスト削減効果が働き、自社でサーバを抱えるよりもコスト効率が良くなるということを説明した。さらに付け加えると、日本のデータセンターの利用コストは、実は世界各国のデータセンターと比べると決して安いとは言えない。まだまだコスト削減の余地があるのだ。
[中村彰二朗/アクセンチュア,スマートジャパン]

連載第1回「自社サーバを環境性能の高いデータセンターに移設しよう」を掲載してからかなり時間がたってしまった。読者の皆さんにおわびしたい。そして、時間があるときで結構なので、もう一度第1回を読み返していただきたいと思う。第2回以降を理解して頂く上で役に立つはずだ。

第1回では企業が抱えるサーバを仮想化技術で集約して、データセンターに移設することで、日本全国の消費電力量を大きく引き下げることができるということに触れた。その結果として、企業は電力にかかるコストを大幅に削減できるだけでなく、サーバ運用にかかる手間を省くことができ、さらなるコスト削減が可能になる。

しかし第1回の末尾で指摘したように、日本におけるデータセンター利用コストは、世界各国と比べると決して安いとはいえない。コストが高くなってしまう要因はいろいろある。例えば、設計が時代遅れとなったデータセンターでは、サーバを冷却する古い設備が膨大な電力を消費して、総電力費用を跳ね上げている。

このような冷却設備を利用しているデータセンターでは、第1回で説明した環境性能指標であるPUE(Power Usage Effectiveness)値で2.0という高い値を記録していることもある。世界最先端のデータセンターのPUE値が、1.2くらいであることをかんがみると、PUE値が2.0ということは、最先端のデータセンターと比較して40%程度効率が悪いということになる。

ちなみに現在の日本の電力単価は米国の2倍以上ともいわれている。この電力単価の高さだけでも世界各国と比べて日本はデータセンター事業に向かない国になっているという見方もあるが、その前にデータセンターとして削減すべき無駄なコストに目を向けるべきである。今回は、日本のデータセンター利用コストを押し上げている要因を指摘したうえで、コストを下げる方法を提案し、解説する。

地価が高い首都圏に集中

通信ネットワーク技術が発達していなかったころは、ネットワークにつながったコンピュータといえば、金融機関が保有する大型コンピュータだった。このころは、通信ネットワーク技術が発達していなかったので、大型コンピュータは所有者である金融機関が集まる都市部にしか設置できなかった。その結果、大型コンピュータを設置する「コンピュータ・センター(計算センター)」が多数首都圏に建設された。

その後、通信ネットワーク技術は発達し、コンピュータ・センターと呼ばれていた施設はデータセンターと呼ばれるようになった。しかし、かつてのコンピュータ・センターであるデータセンターが首都圏に集中しているという事実は、通信ネットワークが発達していなかったころと変わっていない。IDC Japanの調査によれば日本のデータセンターの72%が首都圏に集中している。土地や不動産コストの高い首都圏にこれほどデータセンターが集まっているという事実は、日本のデータセンターにはまだまだ効率改善の余地がある、という示唆を与えてくれる(図1)。

NGDC_2_1.jpg図1 日本のデータセンターは首都圏に集中してしまっている(出典:IDC Japan「データセンターアウトソーシング市場の国内地域別予測」2010年)

図2は、日本のクラウド環境の世界標準化を推進する標準化団体「オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(以下OGC)」が2010年に調査した日本におけるデータセンター事業者のコスト構造である。この調査によると、サーバ当たりの月額コストのおよそ半分は運用コストとサーバやネットワーク機器などにかかるコストだ。運用と機器にかかるコストがコスト全体の半分というのは、世界各国のデータセンターと比較すると割合として小さい。ほかの部分にかかるコストが大き過ぎることが、日本のデータセンターのコスト効率を悪化させている。

NGDC_2_2.jpg図2 日本におけるデータセンター事業者のコスト構造。インテルのクアッドコア・プロセッサを搭載したサーバ1台(消費電力は2200W)にかかる1月当たりの原価を示している。PUE 1.5のデータセンターで試算したもの(出典:オープンガバメントクラウド・コンソーシアム 2010年)

上述の運用コストとサーバやネットワーク機器にかかるコストを除く残りの半分は、発電や蓄電等の設備、データセンタービルの建設、そして広大な土地の取得もしくは土地の賃借に費やされている。一般的に建造物は35年、設備は15年で償却するものだが、コンピュータ関連機器の償却期間はもっと短い。

先に示したデータセンター事業者のサーバ当たりのコストの割合は、上記の期間で償却することを想定して算出したものだ。データセンター運用開始までにかかる初期費用を計算すると、コンピュータ関連機器にかかるコストが全体のおよそ30%、発電や蓄電等の設備、データセンタービルの建設、そして広大な土地の取得もしくは土地の賃借にかかるコストはおよそ70%にもなる。データセンターの利用コストを下げていくには、初期費用のうちコンピュータ関連機器にかかるコストを除いた70%をいかに削減していくか、という点が問題になる。

データセンターが首都圏に集中していると、障害対策が必要な場面で、担当者がすぐにサーバがある場所に駆け付けられる。これは事業者にとっても利用者にとっても安心できることのようにも思われるが、最近のデータセンターは、運用の自動化を目指して機器が構成されているので、緊急メンテナンスのために高度な技術を持つ運用要員を近隣に配置する必要はない。つまり緊急時の対応を想定したとしても、データセンターを首都圏に建てる必要はあまりない。データセンター事業に必要なネットワーク環境が首都圏と同等の費用で手に入るならば、より土地代の安い地方に移設することで、大幅なコスト削減が見込めるということだ。

莫大な建造コストが無駄になっていることも

データセンターの建物を建てるとなると、広大な土地を取得したあと、建築確認に約1年、建造に2年程度、合計で約3年もの時間がかかる。つまり、計画を立案した段階から1年以内に建築を開始したとしても、サービス提供開始まで3~4年掛かってしまう。

これほどの大きな投資案件になると、投資回収期間が長くなり、償却期間も長期となる。計画立案からフル稼働までに時間が掛かるので、投資回収期間も償却期間もそれだけ余計に掛かる。

さらに、巨額を投資しても万が一設計に失敗したりすると、建物を有効に活用できない事態に陥るリスクもある。また、建物単位でデータセンターを増設していく計画を立てるときは、注意して計画を立てないとユーザーに提供できるコンピュータリソースが不足する期間が発生してしまう。当然、その期間はビジネスの機会を損失してしまう(図3)。このような問題に対してデータセンターの形を、後述するモジュール型にすれば、ビジネスの機会を損失するリスクを回避できる。

NGDC_2_3.jpg図3 データセンターの建物を建てるときは、注意して計画を立てないと、需要に応えられるだけのコンピュータリソースを確保できない期間が発生する(出典:オープンガバメントクラウド・コンソーシアム 2010年)

さらに、設計時にコンピュータ技術が進歩する速度を見誤ると、建設期間を経たサービス開始時には最新のサーバを十分に収容できない建物になっている可能性もある。

日本では1998年にデータセンター建設ラッシュがあった。当時は、1ラック当たり3KVAという設計を立てていたが、2007年ごろに建設された比較的新しいデータセンターでは、1ラック当たり6KVAという設計になっている。

2012年現在のサーバは、マルチコアプロセッサを複数搭載している高密度設計になっており、このようなサーバでラックを満たすと20KVA以上の電力が必要になる。つまり、建物を設計したときに、ここまでサーバが進歩するということを予測できていないと、サーバを格納するためのデータセンターが最新のサーバを十分に格納できないという、本末転倒な事態が発生してしまう可能性があるのだ(図4)。

NGDC_2_4.jpg図4 建物を設計するときは、サーバでラックを満たせるように設計しなければならない(左)。コンピュータ技術が進化するスピードを見誤ると、建物が完成してもラックに十分な電力を供給できず、ラックをサーバで満たせないということが発生しうる(右)(出典:オープンガバメントクラウド・コンソーシアム 2010年)

上述のようなリスクを回避するには、必要になった時に、その時の最新サーバをフル活用できるデータセンターを短期間で作るしかない。その方法として、米国では2007年ごろからモジュール型のデータセンターが登場し始め、多くのクラウド・サービス・プロバイダーが採用している。

冷却設備や発電設備などデータセンターの設備をパッケージングしたモジュール型データセンターは、最小の初期投資で用意できる。さらに、ビジネスの拡大に伴って柔軟に拡張できるスケーラビリティも確保している。モジュール型のデータセンターの場合、建物を建てるのとは異なり、1つ1つのモジュールは数カ月でサービス提供の準備を整えられる。必要になった時に、短期間で細かい単位でコンピュータリソースを増強できるので、事業を始めるときは、必要最小限の設備投資で済ませることができるのである。

モジュール型データセンターの中で、コンテナを活用したデータセンターは、ISO規格に準拠した輸送用コンテナを利用しているというメリットもある。世界標準規格に準拠しているので、世界中の輸送網を利用して、簡単に移動させることもできるのだ。

日本の電力事情に合った最適なデータセンター基準とは

現在日本では、米国通信工業会が定めたデータセンター基準である、「TIA-942」に従ってデータセンターを建造、運営している。TIA-942にはTIER1~4の4段階のレベルがある。これは信頼性の高さを示すもので、TIER1が最も低く、TIER4が最も高いということになる。

最も信頼性の高いレベルであるTIER4に従うデータセンターでは、すべての設備を二重化して自前で保有した上で、停電対策として72時間は自家発電でデータセンターを稼働させることができる設備を持たなければならないことになっている。

この基準に従うとデータセンターは、自家発電用の重油を72時間分備蓄しなければならない。こうなると、データセンターは小規模な発電所といっても過言ではない。重厚長大な設備産業ともいえる規模だ。

米国の金融機関が利用するデータセンターは、このTIER4の基準を満たすべきとされている。日本のデータセンター業者も、米国の金融機関に利用してもらうことを狙って、TIER4の基準を満たしたデータセンターを多数作っている。しかし、これは日本の電力事情を考えると過剰設備でしかない。

ここで、米国と日本の電力事情の違いを見てみよう。米国カリフォルニア州は1990年ごろに、電力供給がいつ止まってもおかしくない電力危機に見舞われた。特に2001年の1月17日から始まった停電は、シリコンバレーのIT関連企業の経営に打撃を与え、ビジネスに電子商取引を利用する企業は、1分間の停電で2万ドルから100万ドルの損害をこうむるともいわれた。

では、日本の電力事情はどうだろうか? 東日本大震災発生前のデータだが、電気事業連合会が2007年度の世界の年間停電時間を比較したデータを公開している。これを見ると日本は米国西海岸と比べて、年間停電時間が10分の1となっている。英国と比較しても5分の1以下である。

つまり日本のデータセンターが、年間停電時間が10倍以上になる米国と同じ基準に従うことは明らかに間違いだということだ。停電時に備える設備は、日本の電力品質に即したものに軽減すべきである。そうすることによって、データセンター利用コストをまた引き下げることができる。

OGCでは日本版TIA942をすでに作成し、関係省庁に提出を済ませている。まず、政府には日本版TIA942の標準化を急いでほしいと思う。さらに、世界各国に日本版TIA942を認めてもらうように活動してほしい。世界各国に日本版TIA942を認めてもらえば、海外企業も日本版TIA942と本家のTIA942は、求める設備の内容は異なっても、それぞれ同じレベルの安全性確保を規定したものだと認識してくれるはずだ。

運用コストを下げるにはPUE値の引き下げが必要

ここまでは、データセンターに設備に掛かる無駄なコストについて解説してきた。データセンターの利用コストを下げるにはもう1つ、運用コストを下げる必要がある。

データセンター運用コストの削減は、空調設備等が消費する消費電力量をいかに下げるかという点にかかっている。現在の日本のデータセンターのPUE値平均は2.0とされている。PUE値が2.0ということは、サーバやネットワーク機器など、データセンターとしての主たる機能を構成する機器が消費する電力量と、冷却機器などサーバの運用を補助する機器が消費している電力量が同じということだ。ランニングコストを下げるには、まず世界レベルのPUE値である「1.2」を達成することを意識しなければならない。

第1回でも説明したが、日本でも冷却のために外気を積極的に活用して低いPUE値を達成したデータセンターが登場している。首都圏に集中したデータセンターを日本国中に再配置する際には、PUE値を下げることを強く意識してデータセンターを設計すべきだろう。

サーバに限らず、パソコンやスマートフォンなどといったコンピュータが普及すると、日本全国で消費する電力の総量は上がる。これらは人々の生活を豊かに、そして便利にしてくれるものだが、普及すればするほど消費電力量が上がってしまう。これはあまり望ましいこととはいえない。消費電力量の面から考えると、コンピュータをつなぐネットワークの中核であるデータセンターの消費電力量を引き下げることは、データセンター事業にかかわるすべての技術者の使命ともいえるのではないだろうか。

利用コスト引き下げのために何ができるのか

世界に通用するデータセンターを構築するためにコスト削減をしなくてはならない、というテーマで政策的議論を始めると、論点がどうしても「日本の電気料金が他国と比較して高い」という方向に向かってしまう。そして、その度に、「政府がデータセンター事業者の電力費用を助成すべき」という提言が繰り返されてきた。

しかし電気料金の話をする前に、まずは今回説明してきたように日本のデータセンターのあちこちに、まだまだ削減できるコストがあるということを認識すべきだ。助成の話をする前に、データセンターの全体設計のあり方を見直し、無駄を削除すべく改善を進めなければならない。助成の話は、改善を実施した上で、さらにコスト削減が必要だと判明した時に始めればよいのだ。

日本の事情を踏まえてデータセンターの設計を考え直して再構築することで、日本は世界を相手に競争できるデータセンターを持てるようになる。すでに、日本政府はモジュール型データセンターの普及に備え、建築法や消防法の規制を緩和することを決定し、「総合特区制度」の対象にデータセンターを盛り込んだ。データセンター事業者は、一刻も早く無駄なコストを削減し、次世代のあるべきデータセンターの実現に向けて動き出すべきだ。

第3回では、データセンターが首都圏に集中することによる弊害と、日本各地に分散させることによって得られるメリットについてさらに解説していく。

自社サーバをデータセンターに移設

自社サーバを環境性能の高いデータセンターに移設しよう (1/2)

連載/データセンターの電力効率、コスト効率を上げるには(1):2012年06月15日http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1206/15/news005_2.html

消費電力量節減の話になると、サーバの消費電力量も問題になる。しかし、サーバは簡単には止められない。第1回では、企業でサーバを保持することによるデメリットを挙げ、自社のサーバを、環境性能の高いデータセンターに移設することで得られる効果を解説する。
[中村彰二朗/アクセンチュア,スマートジャパン]

オフィスにおける消費電力量節電策を考えるときは、空調機器と照明機器が主なターゲットとなる。これら2種類の機器が、オフィス全体の消費電力量の大部分を占めるからだ。

しかしもう一つ、オフィスにおいて大きな電力を消費している機器がある。企業情報システムを支えるサーバだ。サーバルームをいくつも用意して、大量のサーバを運用している企業もあるだろう。自社で使うコンピュータシステムのために、自社専用のデータセンターを保有している企業もある。

消費電力量削減の話になれば当然、サーバが消費する電力量も削減しようということになるだろうが、これは簡単ではない。空調機器や照明機器と異なり、簡単に止めるわけにはいかないからだ。止めてしまったら、企業活動の大部分が止まってしまう。

そこでこの連載では、専門事業者が運営するデータセンターを活用するメリットを解説していきたい。さらに、データセンターの利用コスト低下の障害となっている要因や、データセンターが首都圏に集中していることによる問題を指摘していく。

その障害や問題を取り払い、利用コストを下げていけば、日本企業だけでなく、海外に拠点を置く企業がアジアのデータセンター拠点として、日本のデータセンターを利用するということも考えられるだろう。利用者が世界規模で増加していけば、日本のデータセンター利用コストはさらに下がっていくはずだ。

第1回となる今回は、企業の情報システムを支えるサーバを環境性能の高いデータセンターに移行するメリットを解説する。

サーバルーム単位で消費電力量を節減する

サーバ単体で消費電力量を削減することは簡単ではないが、サーバルームという単位で見れば、消費電力量を節減する方法はある。サーバを冷却するための空調機器の設定温度を調節し、サーバルームの冷やし過ぎを防ぎ、空調機器が消費する電力量を減らすのだ。

サーバルームの空調機器が消費する電力量を評価する指標としては、「PUE(Power Usage Effectiveness)」が有名だ。PUE値は、サーバルームなどの設備全体の消費電力を、コンピュータやネットワーク機器が消費する電力量で割ることで算出できる。PUE値が高いほど、空調に無駄な電力を使っているということになる。空調機器を一切使わず、自然冷却だけで済ませることができれば、PUE値は1.0になる。

さらに、最新の高性能サーバを導入し、複数の古いサーバが果たしていた機能を集約するという方法もある。仮想化技術を利用して複数の仮想サーバを構築し、それぞれの仮想サーバに古いサーバ1台1台が担当していた機能を移すのだ。動作するサーバの数が減るので、確実な節電効果を期待できる。

サーバを抱えるには手間もコストもかかる

しかし、企業内のサーバルームの室温を細かく計測し、刻一刻と変わる状況に合わせて空調機器の設定温度を調整することは面倒だ。また、PUE値を追求していくと、建物の設計との兼ね合いで、広いサーバルームにごく少数のサーバしか設置できないという問題が発生する可能性もある。

サーバ運用に必要な付帯設備も問題だ。先に挙げたサーバ冷却用の空調機器のほかに、データをバックアップする機器も必要だ。さらに、停電に備えるためにUPS(無停電電源装置)も必要になる。サーバの台数が増えてくると、それに応じて多くのUPSを用意しなければならない。

しかも、UPSは停電時もサーバを運転し続けるためのものではない。一般的なUPSが停電時に電力を供給できる時間は30分程度。大規模なものならばより長時間にわたって電力を供給できるだろうが、そのような機種はかなり高価になる。一般的なUPSは、サーバを安全に停止させるために時間を稼ぐための道具にすぎないのだ。

このようにサーバだけでなく、サーバを維持するための付帯設備も電力やコストを消費する。オフィス内のサーバルームでは、サーバの冷却効率を上げるために大規模な改装をするなど、思い切った対策は打ちにくい。大規模な改装ができたとしても、かなりの費用がかかる。

環境性能の高いデータセンターへ移設しよう

電力コストの問題、付帯設備の問題、手間の問題を考えると、企業内でサーバを抱えることは割に合わないことが多分にある。そこで筆者は提言したい。「企業で抱えるサーバをデータセンターに移設することを検討しよう」と。

企業内のサーバを一掃して、データセンターに移設すると、上記で説明したサーバ運用につきまとう面倒な作業をすべて引き受けてくれる。例えば、仮想化環境を利用したいユーザーには、あらかじめ作ってある仮想サーバを貸してくれる。

データセンターは大量のサーバを一括で冷却する空調設備を備えている。外気を積極的に利用してサーバを冷やすなどの工夫で、PUE値の低減に力を入れている業者も増えてきている。

停電時の備えもしっかり整えている。自家発電設備を備えているデータセンターも多い。企業内のサーバが担っていた機能をデータセンターに移すと、空調機器やUPSなどのサーバ運用に必要な設備を、データセンターを利用しているほかの企業と共用できる。管理の手間も軽くなる。データやシステムのバックアップはどうなるのだと疑問を持つ方もいるだろうが、遠隔地にあるデータセンターにバックアップを簡単に作れるような体制を構築すればよい。この点については連載の2回目以降で解説する。

日本におけるデータセンター利用率はまだまだ低い

図1を見てほしい。日本に活動拠点を置く企業がデータセンターを利用している割合を示したものだ。2011年2月にIDC Japanが発表した調査結果によると、2011年末の時点で日本国内で動作しているサーバの総数はおよそ276万台。アクセンチュアは、国内で稼働しているサーバの年間の総消費電力は276.4億kWhにも上ると試算している。

In-House and DC図1 図1 日本におけるデータセンター利用率。自社でサーバを抱え込んでいる企業が多く、半数以上のサーバが企業が自社で抱えるデータセンター、企業内サーバルーム(インハウス)、オフィスで動作している(出典:IDC Japan)

276万台のうちデータセンター事業者が運用しているのは約94万台。割合にするとわずか34%。残りの約182万台(66%)は企業が自社で抱えて運用している。

先に説明したように、自社でサーバルームを抱えていると電力消費量節減が難しい。運用にはコストも手間もかかる。「冷やせば良い」という単純な考えでサーバルームの空調機器を運転しており、消費電力量節減のための対策を講じていないところも多い。

サーバとその付帯設備が消費する電力量を削減するには、事業者が運営するデータセンターを利用することが簡単で効果的な策であると筆者は考える。また、この活動は一企業だけで取り組んでいてはいけない。より多くの企業がデータセンターを利用し、日本におけるデータセンター利用率を高めていくことが必要だ。データセンター利用率を高めることで付帯設備を共用する効果が高まり、データセンターの利用コストが低下していくと期待できる。

また、個々の企業がサーバルームの消費電力量を削減する策を実行するよりも、大量のサーバが集まった大規模なデータセンター全体で消費電力量削減対策を打つことで、より大きな効果が期待できる。各地に点在する、消費電力量をコントロールしきれないサーバ群を集約することで、日本全体のサーバとその付帯設備が消費する電力量を最小化できる。その結果、各企業が負担するデータセンター利用費低下につながるだろう。

データセンターは日本各地に分散配置

アクセンチュアでは「データセンター分散促進」を提唱している。日本に拠点を置く各企業が、自社で保有するサーバを専門事業者が運営するデータセンターに移設することを促進させる取り組みだ。企業のサーバをデータセンターに収容しながら、仮想化技術を活用してサーバの稼働台数を減少させる。さらに、データセンターの電力利用効率を高める。加えて、データセンターを日本各地に分散配置して障害時のリスクを低減させるというものだ。

この取り組みを実現させるには、以下の4つのステップを踏む必要がある。

1つ目は「ITは所有から利用へ」。ユーザーの考え方の転換を促すのだ。データセンター利用率を上げていくために、正しい情報を発信していくことや、データセンターを利用しようとする人が不安に感じることが多いセキュリティ対策を徹底することが大切だ。

2つ目はサーバの台数(消費電力量)を大幅に削減させるために、仮想化技術を利用して複数のサーバを統合すること。

3つ目は、世界トップレベルの電力利用効率(PUE値が1.2程度)を実現するデータセンターを日本各地に再配置すること。現在、日本のデータセンターは地価が高い首都圏に集中している。地価の高さ、ビルの賃料の高さがデータセンター利用料を押し上げる要因になっている。利用コストを少しでも低減させるには、首都圏に存在するデータセンターの多くを日本各地に再配置させ、空いたスペースを一般オフィスに転用するなどの施策も欠かせない。

4つめは、日本全国に再配置した、電力利用効率が高いデータセンターを日本中の各企業が利用することの促進だ。

日本全国という規模で考えれば、大幅に電力消費量を削減できる

データセンター分散促進の取り組みを実現するために、以上で紹介した4つのステップを踏んでいけば、日本中で稼働しているサーバと、その付帯設備全体の消費電力量を大幅に下げられる。

図2は、データセンター分散促進によって期待できる消費電力節減効果の試算結果をまとめたものだ。先に紹介したように、2011年2月にIDC Japanが発表した調査結果によると、日本で動作しているサーバの総数はおよそ276万台。アクセンチュアは、すべてのサーバの合計消費電力は年間で276.4億kWhと試算している。

Integration図2 日本中のサーバをデータセンターに集約することで期待できる消費電力節減効果(出典:アクセンチュア)

このうち、企業が抱えているサーバは182万台。一方、データセンターで稼働しているサーバは約94.6万台に過ぎない。ミック経済研究所の「データセンターの消費電力とグリーンIT化の実態調査 2011年度版」によると、データセンターで稼働しているサーバの年間消費電力量は、94.5億kWhと少なめだ。日本中のサーバの年間合計消費電力量を先に示した通り276.4億kWhとすると、企業が抱えているサーバは年間に合計で181.5億kWhを消費していることになる。

まず、企業が保有するサーバを仮想化技術で統合していくことで稼働台数を75万台に減らせると見ている。これは、IDC Japanが2012年5月に発表した「国内仮想化サーバー市場予測」にある、2011年のサーバ出荷台数のうち、仮想化環境を構築するためにユーザーが購入したサーバの割合が16%というデータから推計した。仮想化技術による統合の結果、年間の消費電力量は74.9億kWhまで下げられる。

さらに、統合したサーバをデータセンターに移設する。仮想化後の企業内サーバ台数と、事業者内データセンター内のサーバ台数の合計はおよそ169万台になり、年間消費電力量は169億kWhとなる。前述の、国内におけるサーバの年間消費電力量は276.4億kWh。集中、統合によって100億kWh以上の電力を節約できる計算になる。ちなみに100億kWhは、一般家庭約280万世帯の年間電力消費量に相当する数値だ。

税制優遇や助成も考える必要あり

このように、日本全国で稼働しているサーバをデータセンターに移設することで莫大な量の電力を節約できる。しかし、仮想化という比較的新しい技術を導入することを嫌がる企業もある。動いているシステムに手を入れて、障害が発生することを恐れる企業も少なくない。

さらに、抱えているサーバをデータセンターに移行させることに抵抗を感じる企業も多い。大切なデータだからこそ、自分たちの手元においておきたいと考えるのだろう。

そこで、サーバ統合やデータセンターに取り組む企業に対して、税制上の優遇策や、助成金を用意することも考える必要もあるかもしれない。

第2回は、日本のデータセンターの利用コストが、実は世界各国と比べると決して安いとは言えないという問題を指摘し、日本のデータセンター事業者のコスト構造と、抱えている問題について解説する。

漫画誌の将来に不安 自らネット出版社

http://www.asahi.com/culture/update/0724/TKY201207240310.html
2012年7月24日

漫画誌の将来に不安 海猿の佐藤さん、自らネット出版社

写真:「海猿」の原作者・佐藤秀峰さん。最新映画「BRAVE HEARTS 海猿」は、まだ見ていないという。「試写会のような場所は苦手なので。一般のお客さんに混ざって見に行きます」拡大「海猿」の原作者・佐藤秀峰さん。最新映画「BRAVE HEARTS 海猿」は、まだ見ていないという。「試写会のような場所は苦手なので。一般のお客さんに混ざって見に行きます」
写真:佐藤秀峰さんが立ち上げた「漫画 on Web」(http://mangaonweb.com/welcome.do)の画面。読者のレビューなども読むことができる拡大佐藤秀峰さんが立ち上げた「漫画 on Web」(http://mangaonweb.com/welcome.do)の画面。読者のレビューなども読むことができる

 漫画は今のままで生き残れるのか。そんな疑問を抱いた漫画家が、ネット上で新たな試みを形にした。オンラインコミックのサイト「漫画 on Web」(http://mangaonweb.com/welcome.do)を立ち上げたのは「海猿」などで知られる、佐藤秀峰さん(38)。代表作の一つ「ブラックジャックによろしく」が累計千万部を超えるなど、売れっ子漫画家の一人だ。しかし、部数が減り続けているコミック誌(漫画雑誌)の現状に危機感を抱き、出版社を介さずマンガをデジタル上で販売できる場を作った。

北海道生まれの佐藤さんは、漫画家をめざして上京。アシスタントなどを経て97年にデビューした。99年に連載が始まった「海猿」は、海上保安官の活躍を描き大ブームを起こす。連載終了後も映画やテレビドラマなどで作品化され、新たなファンを獲得。4作目となる最新映画「BRAVE HEARTS 海猿」が今年7月に公開されるなど、根強い人気を誇っている。

一見、順調な漫画人生。だが、デビューから10年ほど経ったとき、雑誌よりも自分の単行本の販売部数が多い状況を目の当たりにし、コミック誌の将来に不安を抱くようになる。また、アシスタントの人件費や取材費などを賄いながら十分な生活ができるのは、漫画家の中でも一握りしかいないことにも疑問を持った。単行本の印税率を上げるため、出版社と交渉したこともあったが、「前例がない」という理由で結局、話し合いは行き詰まる。「不眠不休で作品を作り上げた結果の待遇としては、矛盾を感じざるを得ませんでした」という。

紙の雑誌に頼らず、漫画家が出版社と対等の立場でいられるにはどうすればいいのか。考えた末、自ら新しい出版社を立ち上げようとする。しかし、取次店などとの関係を考えると1人の漫画家でできる仕事ではないと断念。その時、海外のミュージシャンが、オンラインで自分の曲を配信し成功を収めたことを思い出す。「漫画で同じことができないか」。そう考え、オンラインコミックの場を作ろうと決心する。

2010年3月、「漫画 on Web」をオープンする。漫画を読むには会員登録を済ませ、仮想通貨であるポイントをクレジットカードなどで購入する。ポイントの価格は、300ポイントなら315円。佐藤さんの作品「特攻の島」の場合、1話20ページを、30~50ポイントで買うことができる。漫画家が作品をアップロードする場合、月額300円を払えば容量無制限で自分の作品を配信できる。機能に制限のある無料プランも用意されている。

サイト開設を機に、佐藤さんは思い切った決断をする。ヒット作「ブラックジャックによろしく」の全13巻を無料公開したのだ。新しく始めたサービスの認知度を高めるには、何よりネット上で話題になることが必要だと考えたからだ。単行本として流通している商品の無料公開だったが、ためらいはなかったという。「昔の単行本を眠らせていても1円も生み出さないと思いました」。狙いは当たり、サイトの存在は一気に知れ渡る。有料の作品も読まれるようになり、佐藤さんの作品の売り上げは一時、月100万円を超えた。他の漫画家の売り上げも2倍以上になったという。

オープン当初、参加するプロの漫画家は10人に満たなかった。現在はアマチュアを含む100人以上の漫画家が作品を発表し、登録した会員は2万人に達している。佐藤さんは、サイトの管理のためスタッフ2人を雇用しているが、収支は「トントン」だという。

課題も見えてきた。現状ではプロの漫画家は紙への掲載を前提に描かざるを得ない。発表される作品は、紙にも使える描き方になってしまう。「全ページをカラーにするとか、紙とは違ったコマ割りを使うとか。デジタルの特性はまだ生かせると思ってます」。今後は、大御所と呼ばれる実績ある漫画家も巻き込んでいきたいという。

電子書籍など様々な読書の形が生まれる中、漫画家が出版社に頼らず、自分の足で歩いていくにはどうすればいいか。佐藤さんは「複製が簡単に行えるようになった時代、漫画でも音楽のライブのような体験を売ることができるかもしれません」と話している。(奥山晶二郎)

〈コミック誌と単行本〉2005年に単行本(コミックス)の推定販売額がコミック誌を上回って以降、その差が広がっている。2010年は、単行本が2315億円だったの対し、コミック誌は1776億円。推定発行部数でもコミック誌は減少が続いており、2010年は7億7974万部と、10年前の約6割に落ち込んでいる。コミック誌で連載マンガを売り込み、単行本の購入に結びつけるという従来の手法が成り立ちにくくなっている。一方、スマートフォンやタブレットPCの普及もあり、出版各社は今年4月、「出版デジタル機構」を設立。電子書籍の普及や配信システムの整備などを進めている。

NTTコムら、東京データセンターを稼働

NTTコムら、東京データセンターを稼働

マイナビ ニュース
http://news.mynavi.jp/news/2012/08/08/027/

Veeva Systems(以下、Veeva Systems)とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は8月7日、Veeva Systemsの東京データセンター20+ 件の稼働を開始したと発表した。

Veeva Systemsは、セールスフォース・ドットコムのForce.comと、独自開発したシステムを連携させることにより、製薬企業向けのCRMソリューションをはじめとしたクラウドサービスを提供している。


「Biz ホスティング Enterprise Cloud」のシステム概要

これまで国外に構築していたVeeva SystemsのシステムをNTT Comのグローバルクラウドサービス基盤上に新設することにより、日本の顧客は国内の通信環境でVeeva Systemsのサービスを利用できるようになる。東京データセンター20+ 件は、今後アジア太平洋地域におけるコアセンターとしての役割を担う予定。

= 考察 ==============================================

セールスフォース・ドットコムは、上記のNTTコムの東京データセンターに日本向けのクラウドサービス拠点を構築したそうだ。東京データセンターといっても、横浜にあるらしいが。これまでは、日本の利用者もアメリカのデータセンターにあるアプリケーションを利用していたため、通信回線の距離遅延が多少起こっていて、利用者から不満の声があったらしい。日本の横浜に拠点を移すことによって、日本のユーザーにとっては距離遅延が改善され、より多くのサービスを受けやすくなったのではと思っている。セールスフォースの営業マンの話では、「以前拠点がアメリカにかるころから通信は高速に行われているので、そんなに変わりません。」とおっしゃっていましたが。

各企業のビジネスのコア業務処理や財務会計など基幹システムは、まだまだ自前の環境で構築されるであろうが、営業やプロジェクト管理、稟議などの社内ワークフローは、別に自前にこだわる話ではないと思うので、今後ますますクラウドサービスへの移行が進むのではないかと考えている。

自前で構築する場合との比較では、(1)維持管理費、(2)バックアップ、(3)セキュリティ対策が上げられると思う。

1.維持管理費

セールスフォースのライセンス料は、月額1ID当り16,000円である。100ユーザー利用した場合は、月額160万円、年間で約2、000万円くらいの維持管理費となる。ただし、この中に基盤システムのハードウエアとソフトウエアの費用やバックアップ費、セキュリティ対策費など運用に関する費用も含まれる。仮に1000ユーザー利用するとした場合は、上記の金額の10倍となる。

2.バックアップ

セールスフォースの話では、バックアップはすべてアメリカのデータセンターで行っており、もし日本のデータセンターが稼動できない状態になっても、通信回線が生きていれば通信経路の変更をし、アメリカのデータセンターを引き続き利用することができるしくみとなっているようだ。

3.セキュリティ対策

この場合のセキュリティ対策とは、外部からの脅威について問うことが中心だと思うが、日々深刻化する外部からの脅威に備え、充分な投資をしているとの話であった。

上記を自前でする場合、システム基盤の費用やバックアップの方針と費用、セキュリティ方針と費用、それに運用にかかる人件費など計算できるものはすべて計算して、比較してみると、サービスレベルと価格の優越は見ることができると思う。自前で行う場合は、リスクとコストが反比例するので、何を優先するかでコストをコントロールすすことができる。

セールスフォースにアウトソースした場合は、自分のデータをどれだけ自由に使えるのかということを考慮しなければならない。最悪、セールスフォースが倒産しシステム全体が使えなくなった場合、自社の業務がストップしてしまうのでは元も子もない。どこまで機能を委ねていいかは、大きな問題である。どこまで他社を信用できるかということでもある。

そういう意味で、基幹業務システムのクラウド化というのは無理ではないかと思っている。