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漫画誌の将来に不安 自らネット出版社

http://www.asahi.com/culture/update/0724/TKY201207240310.html
2012年7月24日

漫画誌の将来に不安 海猿の佐藤さん、自らネット出版社

写真:「海猿」の原作者・佐藤秀峰さん。最新映画「BRAVE HEARTS 海猿」は、まだ見ていないという。「試写会のような場所は苦手なので。一般のお客さんに混ざって見に行きます」拡大「海猿」の原作者・佐藤秀峰さん。最新映画「BRAVE HEARTS 海猿」は、まだ見ていないという。「試写会のような場所は苦手なので。一般のお客さんに混ざって見に行きます」
写真:佐藤秀峰さんが立ち上げた「漫画 on Web」(http://mangaonweb.com/welcome.do)の画面。読者のレビューなども読むことができる拡大佐藤秀峰さんが立ち上げた「漫画 on Web」(http://mangaonweb.com/welcome.do)の画面。読者のレビューなども読むことができる

 漫画は今のままで生き残れるのか。そんな疑問を抱いた漫画家が、ネット上で新たな試みを形にした。オンラインコミックのサイト「漫画 on Web」(http://mangaonweb.com/welcome.do)を立ち上げたのは「海猿」などで知られる、佐藤秀峰さん(38)。代表作の一つ「ブラックジャックによろしく」が累計千万部を超えるなど、売れっ子漫画家の一人だ。しかし、部数が減り続けているコミック誌(漫画雑誌)の現状に危機感を抱き、出版社を介さずマンガをデジタル上で販売できる場を作った。

北海道生まれの佐藤さんは、漫画家をめざして上京。アシスタントなどを経て97年にデビューした。99年に連載が始まった「海猿」は、海上保安官の活躍を描き大ブームを起こす。連載終了後も映画やテレビドラマなどで作品化され、新たなファンを獲得。4作目となる最新映画「BRAVE HEARTS 海猿」が今年7月に公開されるなど、根強い人気を誇っている。

一見、順調な漫画人生。だが、デビューから10年ほど経ったとき、雑誌よりも自分の単行本の販売部数が多い状況を目の当たりにし、コミック誌の将来に不安を抱くようになる。また、アシスタントの人件費や取材費などを賄いながら十分な生活ができるのは、漫画家の中でも一握りしかいないことにも疑問を持った。単行本の印税率を上げるため、出版社と交渉したこともあったが、「前例がない」という理由で結局、話し合いは行き詰まる。「不眠不休で作品を作り上げた結果の待遇としては、矛盾を感じざるを得ませんでした」という。

紙の雑誌に頼らず、漫画家が出版社と対等の立場でいられるにはどうすればいいのか。考えた末、自ら新しい出版社を立ち上げようとする。しかし、取次店などとの関係を考えると1人の漫画家でできる仕事ではないと断念。その時、海外のミュージシャンが、オンラインで自分の曲を配信し成功を収めたことを思い出す。「漫画で同じことができないか」。そう考え、オンラインコミックの場を作ろうと決心する。

2010年3月、「漫画 on Web」をオープンする。漫画を読むには会員登録を済ませ、仮想通貨であるポイントをクレジットカードなどで購入する。ポイントの価格は、300ポイントなら315円。佐藤さんの作品「特攻の島」の場合、1話20ページを、30~50ポイントで買うことができる。漫画家が作品をアップロードする場合、月額300円を払えば容量無制限で自分の作品を配信できる。機能に制限のある無料プランも用意されている。

サイト開設を機に、佐藤さんは思い切った決断をする。ヒット作「ブラックジャックによろしく」の全13巻を無料公開したのだ。新しく始めたサービスの認知度を高めるには、何よりネット上で話題になることが必要だと考えたからだ。単行本として流通している商品の無料公開だったが、ためらいはなかったという。「昔の単行本を眠らせていても1円も生み出さないと思いました」。狙いは当たり、サイトの存在は一気に知れ渡る。有料の作品も読まれるようになり、佐藤さんの作品の売り上げは一時、月100万円を超えた。他の漫画家の売り上げも2倍以上になったという。

オープン当初、参加するプロの漫画家は10人に満たなかった。現在はアマチュアを含む100人以上の漫画家が作品を発表し、登録した会員は2万人に達している。佐藤さんは、サイトの管理のためスタッフ2人を雇用しているが、収支は「トントン」だという。

課題も見えてきた。現状ではプロの漫画家は紙への掲載を前提に描かざるを得ない。発表される作品は、紙にも使える描き方になってしまう。「全ページをカラーにするとか、紙とは違ったコマ割りを使うとか。デジタルの特性はまだ生かせると思ってます」。今後は、大御所と呼ばれる実績ある漫画家も巻き込んでいきたいという。

電子書籍など様々な読書の形が生まれる中、漫画家が出版社に頼らず、自分の足で歩いていくにはどうすればいいか。佐藤さんは「複製が簡単に行えるようになった時代、漫画でも音楽のライブのような体験を売ることができるかもしれません」と話している。(奥山晶二郎)

〈コミック誌と単行本〉2005年に単行本(コミックス)の推定販売額がコミック誌を上回って以降、その差が広がっている。2010年は、単行本が2315億円だったの対し、コミック誌は1776億円。推定発行部数でもコミック誌は減少が続いており、2010年は7億7974万部と、10年前の約6割に落ち込んでいる。コミック誌で連載マンガを売り込み、単行本の購入に結びつけるという従来の手法が成り立ちにくくなっている。一方、スマートフォンやタブレットPCの普及もあり、出版各社は今年4月、「出版デジタル機構」を設立。電子書籍の普及や配信システムの整備などを進めている。