月別アーカイブ: 2012年5月

電力を安く使うための基礎知識(6)

導入企業が増えるガスコージェネ、電気と熱の両方を効率よく供給
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1205/29/news069.html
家庭向けの「エネファーム」で注目を集めているガスコージェネレーションシステムは、都市ガスやプロパンガスから電気と熱の両方を作り出せるためにエネルギー効率が高く、通常の電力と比べてコストが割安になる。特に熱を多く使う企業が導入すると効果的だ。
[石田雅也,スマートジャパン]

ガスと聞くと、従来はガスコンロやストーブ、給湯機などに使われるイメージが強かったが、最近は企業の発電用でも普及してきた。ガスを使って電気と熱の両方を作り出せることから「ガスコージェネレーションシステム」(略称「ガスコージェネ」)と呼ばれている。

調査会社の矢野経済研究所によると、東日本大震災の後に発電システムとしての需要が高まり、2011年度は企業向けのガスコージェネの出荷金額が前年度から2倍以上に増加した。今後も年率40%以上のペースで市場規模が拡大していくと予測されている。

ALT図1 ガスコージェネレーションシステムと火力発電のエネルギー効率。出典:日本ガス協会

ガスコージェネが注目を集める要因は主に2つある。1つは電気と熱の両方を利用者の近くで作ることができるため、同じガスを使う火力発電と比べて、効率的にエネルギーを生み出せる点だ(図1)。発電の時に出る熱を再利用して冷暖房や給湯に使うことができる。およそ2倍の効率でエネルギーが利用者に届き、それに伴ってエネルギーの利用コストが安くなる。

かりに電力会社とガス会社が同様のコスト計算で電気料金とガス料金を設定していれば、ガスコージェネは利用者から見ると通常の電力と比べて約半分のコストで済む計算だ。その差額によってガスコージェネシステムの導入費を回収し、それ以降のコスト削減につなげることができる。

もう1つのメリットは災害や電力不足によって停電が発生しても、電力を供給し続けられることである。これまでガスコージェネはポンプなどの動力用に電力会社からの電力供給がないと動作しない製品が多かったが、最近は自立型の製品が増えて、停電時でも動作モードを切り替えて電力と熱を供給できるようになってきた。企業にとってはBCP(事業継続計画)の点でも効果を期待できる。

現在のガスコージェネシステムは発電の仕組みによって3種類に分けられる(図2)。発電容量の大きい順に「ガスタービン」「ガスエンジン」「燃料電池」の3方式である。このうち家庭向けで普及している「エネファーム」は燃料電池を使ったものだ。タービンやエンジンを使わないので騒音が小さいという利点がある。

ALT図2 ガスコージェネレーションシステムの種類。出典:日本ガス協会

企業向けの小型システムで400万円程度

ガスコージェネは太陽光発電システムと同様に、発電能力が10kW以上の製品が企業向け、10kW以下が主に家庭や店舗向けである。ガス会社のほかに電機メーカーや自動車メーカーなどが企業向けと家庭向けの両方を販売している。

企業向けの小型システムが10kWタイプで400万円程度、家庭用のエネファームで0.7kWタイプの普及型が給湯と暖房の機能が付いて250万円程度である。

ALT図3 ガスコージェネレーションシステムの導入施設。電力と熱の必要量によって導入するシステムが分かれる。出典:日本ガス協会

ガスコージェネ製品を検討するにあたって重要なことの一つは、電力を重視するか、給湯や冷暖房など熱の供給を重視するかである。導入する施設によって電力と熱の必要量のバランスが違うため、製品も電力供給に重点を置いたタイプと熱の供給に重点を置いたタイプに分かれている(図3)。電力と熱の必要量に見合った製品を導入すれば、十分な費用対効果を得ることができる。

ALT図4 企業向けの小型ガスコージェネレーションシステム(寸法はミリメートル)。出典:東京ガス

企業向けの小型システムで標準的な製品を例にとると、発電能力が10kWタイプのもので、熱の供給量を加算すると約27kW相当のエネルギーを作り出すことができる(図4)。ガスからのエネルギー効率は電力が30%、熱が50%で、利用可能なエネルギーは合計して80%になる仕組みだ。火力発電の場合の40%と比べて、エネルギーの変換効率は2倍になる。

このガスコージェネシステムを毎日12時間稼働させた場合、年間の電力使用量に換算すると約12万kWhに相当する。企業向けの電気料金の平均的な単価15円/kWhを掛け合わせると年間で約180万円になる。エネルギー効率を2倍とすれば、ガス料金が2分の1の約90万円で済むことになり、年間で約90万円のコスト削減につながる計算だ。

5年程度で初期導入費を回収できる

初期導入費はシステムの価格400万円に工事費が加わる。これに対して毎年90万円のコストを削減できれば、5~6年程度で回収できる。平日だけ稼働させた場合は1.5倍の期間が必要になる。ガスコージェネの寿命は標準で10年~15年と言われており、それでもコスト回収は十分に可能だろう。特に休日がなくて営業時間が長いホテルや病院、ファストフード店やコンビニエンスストアなどに導入すれば効果的である。

経済産業省の補助金制度も企業向けと家庭向けの両方で用意されている。企業向けは発電能力が10kW以上の製品を導入した場合に、一般企業であれば工事費を含む導入費用の3分の1まで、地方自治体などは2分の1まで補助金を受けることができる。申請の締め切りは2012年6月15日である。

家庭向けにはエネファームの補助金が2013年1月末まで申請を受け付けている。1台あたり70万円までの補助金を受けることができる。電気料金の値上げが相次ぐ中、うまく補助金を活用して低コストでガスコージェネを導入する好機と言える。

電力を安く使うための基礎知識(5)

昼間の電力ピークカットには太陽光発電、価格低下で普及が加速
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1205/23/news069.html
国内で太陽光発電システムを導入する動きが加速している。市場拡大に伴って価格が下がり、2011年度には出荷量が前年比で3割以上も増えた。昼間に使う電力を太陽光発電でカバーすれば、ピークカットとコスト削減を両立させることができる。
[石田雅也,スマートジャパン]

夏に向けて電力会社の料金値上げが相次いでいる。電気料金を抑えるうえで、昼間の電力使用量を大幅に減らすことが重要になってきた。その最善策として太陽光発電システムを導入する企業や家庭が増えている(図1)。

最近の3年ほどで太陽光発電システムの価格は2割くらい下がった。さらに補助金制度が国だけではなく全国の地方自治体でも始まり、導入費用を回収しやすくなったことが追い風になっている。太陽光発電による余剰電力の買取価格も高めに設定されており、将来に向けて導入メリットがますます大きくなってきた。

ALT図1 太陽電池の国内出荷量(2011年度から用途の区分を変更)。出典:太陽光発電協会

価格は1kWhあたり50万円前後まで低下

太陽光発電システムは蓄電システムと同じように、企業向けと家庭向けで製品が分かれている。家庭向けは発電能力(最大出力)が10kW未満、企業向けは10kW以上が一般的である。価格は3年前の2009年に1kWあたり70万円程度だったものが、現在は50万円前後まで下がっている。

蓄電システムで課題になっている製品の寿命に関しても、現状では10年~20年と相対的に長い。太陽光発電システムの主な構成要素は、太陽光を電気に変換する「太陽電池」のほかに、太陽電池が作り出す直流の電気をさまざまな機器で使えるように交流に変換する「パワーコンディショナ」の2つである(図2)。

このうち太陽電池の寿命は20年~30年と長く、一方のパワーコンディショナは半分の10年~15年程度と想定されている。平均すると太陽光発電システムの寿命は15年と考えるのが妥当だろう。

ALT図2 太陽光発電システムの標準的な構成要素。出典:太陽光発電協会

以上のような価格と寿命をもとに、太陽光発電システムの年間コストを大まかに計算することができる。10kWの発電能力があるシステムの価格は約500万円で、工事費を1割プラスして、寿命を15年とすると、年間で約37万円のコスト負担になる。

一般の家庭の場合には現在のところ4kWタイプが標準的で、1年あたり15万円程度で費用を見込んでおく必要がある。ただし補助金を使えば、もう少し安くなる。国が運営する制度では、1kWあたり3万~3万5000円の補助金が支給される。

「固定価格買取制度」で費用対効果が改善

では太陽光発電システムが作り出す電力の量はどのくらいになるのか。当然ながら気象条件や地域によって変わってくるが、参考値としてパナソニックが試算したデータを使うことにする(図3)。これを見ると、10kWの発電能力があるシステムの場合で、およそ1万2000~1万4000kWhの電力を1年間に作り出すことができる。

ALT図3 日本の主要都市において太陽光発電システム(最大出力10kW)が年間に作り出す電力量の予測値。出典:パナソニック

この電力量をもとに、年間の電気料金を計算すれば、費用対効果が分かる。企業向けの電気料金の単価は、1kWhあたり15円程度である。年間で1万3000kWhの電力を太陽光発電システムでカバーできると、約20万円分の電力に相当する。これだと先ほど計算した年間のコスト負担額(約37万円)の半分程度にとどまる。

ただし太陽光発電システムによる電力の全量を自社で使わなければ、余った分を電力会社に売ることによって、ある程度のコストを回収することができる。太陽光発電で作り出された電力は、2009年11月から始まった「太陽光発電の余剰電力買取制度」により、経済産業省が決めた価格で電力会社が買い取ることになっている。直近の2012年4月~6月の価格は1kWhあたり40円か42円で、通常の企業向け電気料金の2倍以上に設定されている(図4)。

ALT図4 太陽光発電の買取価格(2012年4月~6月)。太陽光以外の自家発電設備を併用した場合には「ダブル発電」の価格を適用。出典:経済産業省

電気料金が高い家庭では大きなメリット

さらに2012年7月からは「再生可能エネルギー固定価格買取制度」が始まることになっており、太陽光発電の電力は1kWhにつき42円で買取価格が固定される。かりに10kWの発電能力がある太陽光発電システムからの電力をすべて売った場合には、年間で約55万円の収入になり、コスト負担額の37万円を大きく上回る。およそ半分の電力を自社で使用して、残った半分を電力会社に売ると、ほぼトントンの状態になる。42円という固定価格は、絶妙な設定と言える。

一方、家庭の場合は電気料金の単価が1kWhあたり25円程度で、企業向けよりも高い。太陽光発電による電力をすべて使い切っても、ちょうど年間のコスト負担額(約15万円)と見合う。さらに東京電力や関西電力が時間帯別の料金プランを家庭向けにも開始する。

そうなると蓄電システムを導入して、昼間の太陽光発電による電力を長時間にわたって家庭内で利用できれば、単価の安い夜間だけ電力会社から購入することで、電気料金を大幅に引き下げることが可能になる。現状では企業よりも家庭のほうが、太陽光発電の費用対効果の点で有利だ。

最近は太陽光発電のほかにも、電気と熱の両方を効率よく作り出せる「ガスコージェネレーションシステム」が家庭や店舗を中心に広がってきた。本連載の次回で解説する。

電力を安く使うための基礎知識(4)

蓄電池に夜間の安い電力を、今なら補助金も使える
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1205/15/news065.html
東京電力が夏のピークシフトを目的に、時間帯別の料金制度を店舗や家庭向けのサービスにも拡大する。夜間の安い電力を昼間に効率よく使うためには、蓄電システムが欠かせない。ただし価格の高さと寿命の短さが大きな課題として残る。
[石田雅也,スマートジャパン]

 

電力会社は昼間の電力需要のピークを下げるために、昼間の電気料金を高くする代わりに夜間を格段に安くした「時間帯別料金プラン」を、企業向けと家庭向けの双方で増やしている。利用者側は昼間の電力使用量を減らして、その分を夜間に回すことによって、毎月の電気料金を引き下げることができる。

そこで夜間の電気を貯めて昼間に使える蓄電システムに大きな注目が集まってきた。住宅メーカー各社から発売が相次いでいるスマートハウスにも標準的に蓄電システムが組み込まれている。

電気料金の削減とピークカットを実現

蓄電システムを使った夜間電力の活用方法は単純明快だ。電気料金が安くなる夜の時間帯に電力の一部を蓄電システムに貯めておき、電気料金が高くなる昼の時間帯に入ったら蓄電システムに貯めた電力を優先的に使うようにする(図1)。システムを切り替える時間は電力会社の料金メニューや電力使用量がピークになる時間帯に合わせてタイマーで設定する。

ALT図1 蓄電システムによる夜と昼の電力供給の流れ。出典:パナソニック

たとえ昼間に使う電力の量が従来と同じであっても、蓄電システムによる電力の分だけ、電力会社から供給を受ける量を減らすことができる。電力使用量の「ピークカット」ができるわけで、昼夜の電気料金の差額に加えて、ピークの抑制による基本料金の引き下げにもつながる“一石二鳥”の効果がある。

さらに電力使用量を監視・制御できるBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)やHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)と組み合わせれば、蓄電システムからの供給電力量に合わせて照明や空調をコントロールしたり、太陽光発電からの供給電力とバランスをとったりすることも可能になり、電力会社から購入する量を最小限に抑えることができる(図2)。現時点で最も進んだ節電対策と言える。

ALT図2 蓄電システムと太陽光発電を組み合わせることにより、昼間に電力会社から購入する電力量を抑制。出典:パナソニック

実際にオフィスや家庭に蓄電システムを設置する方法も小型の製品であれば難しくない。通常の100Vで使う場合には、蓄電システムの電源プラグをコンセントにつないで、あとは電気機器の電源プラグを蓄電システムに接続するだけである(図3)。ただし小型の蓄電システムだと供給できる電力の制限によって、消費電力が大きいエアコンなどは接続できないことに注意する必要がある。

ALT図3 小型蓄電システムの接続例。出典:ソニー

小型の蓄電システムで価格は100万円台

現在市販されている蓄電システムは大型と小型の2種類に分けることができる。蓄電システムに貯められる電力の容量によって、10kWh以上を大型、10kWh未満を小型に分類する。kWhは「キロワット×時」を表す単位で、1キロワットの電力を1時間使った場合の電力使用量が1kWhになる。電気料金の単価も同様にkWhで決められている。

小規模な店舗や家庭で使うには小型の蓄電システムで十分で、現在は1kWh~3kWh程度の製品が主流である。例えば一般の家庭では平均して500W(0.5kW)程度の電力が使われているため、単純に計算すると容量が1kWhの蓄電システムで2時間分の電力を供給できることになる。ただし100%の電力を使い切らずに、7割程度までに抑えて利用するのが一般的だ。

小型の蓄電システムの価格は現在のところ、容量が1kWh~3kWhの製品で100万~200万円の範囲にある。政府の補助金を受けられるリチウムイオン電池を搭載した製品が現在7つあり、導入費用の3分の1を補助金でカバーできる(図4)。

ALT図4 政府の補助金制度の対象になる小型の蓄電システム。2012年5月14日現在

一方、容量が10kWhを超える大型の蓄電システムは、工場や中規模以上の店舗などで、消費電力の大きい機器と接続する用途に向いている(図5)。業務用のエアコンや冷蔵庫などに電力を供給することも可能だ。その代わり価格は小型と比べてかなり高い。例えばパナソニックからリチウムイオン電池を組み込んだ容量15kWhの製品が発売されているが、1台で770万円と小型の5倍程度になる。

ALT図5 大型蓄電システムの接続例。出典:パナソニック

大型の蓄電システムに対しても今後は政府の補助金を適用できるようになる。小型の場合と同様に工事費を含めた導入費用の3分の1が補助され、企業が導入する場合には上限が1億円と高額である。接続する機器の電力使用量の合計値をもとに、必要な容量と導入台数を決めて、最大限に補助金を利用することが望ましい。

リチウムイオン電池の寿命は5年~10年程度

蓄電システムの導入にあたって注意すべきことの一つに、内蔵する電池の寿命がある。充電と放電を繰り返すことで電池の性能が劣化するためだ。仕様通りの性能を発揮できる期間は利用状況によるが、リチウムイオン電池の場合で5年~10年と言われている。100万円で導入した蓄電システムのコストは、安全を見て寿命を5年と考えると、1年あたり20万円にもなる。

このコストを昼夜の電気料金の差額分で吸収できれば、停電時にも電力を確保できることと考え合わせて、導入メリットは十分にある。しかし年間で20万円の電気料金を削減するというのは、少なくとも一般家庭では非現実的な話である。

実際に現在の電気料金の単価をもとに、蓄電システムの費用対効果を計算してみる。電力の使用量が変わらない前提で、昼夜の電気料金の差額だけを想定する。電力会社が設定している時間帯別の単価を比べると、昼間と夜間の差は家庭向けで1kWhあたり20円~25円程度、企業向けでは5円~10円程度である。

一般の家庭で小型の蓄電システムを使って毎日1kWhの電力を昼から夜にシフトしても、1日あたり20円~25円、年間で1万円も削減できないことになる。100万円かけて蓄電システムを導入するとコストを回収できないことは明らかだ。

企業においても状況はさほど変わらない。大型の蓄電システムで毎日10kWhの電力を昼から夜に振り替えても、1日あたりの電気代は50円~100円程度しか削減できない。年間でも4万円に満たない額である。さらにピークカットによって基本料金の削減も期待できるが、その効果を加えても年間で10万~20万円程度の電気料金を減らすのが精いっぱいの範囲だ。数100万円にのぼる蓄電システムの導入コストを短期間のうちに回収することは難しい。

これから蓄電システムの価格が数分の1に下がり、寿命がさらに延びていかないと、費用対効果の点では得な策とは言いがたい。

とはいえ蓄電システムを導入することで無理なくピークカットを実現できる点は、電力が足りない社会情勢から考えて重要な対策になる。特に昼間に多くの電力を使う店舗や工場の節電対策としては十分な役割を果たす。太陽光発電システムと組み合わせれば、昼間に余った電力を蓄電システムに貯めて、夜間や悪天候時に利用することも可能になる。

当面は電力を安く使う目的よりも、限りある資源や電力を有効に活用するためのシステムと考えて導入するのが正しいだろう。

 

電力を安く使うための基礎知識(3)

節電対策の主役に急浮上、BEMSの費用対効果を検証
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1205/07/news030.html
電力需要が増加する夏を前に、多くの企業で節電対策が急ピッチに進んでいる。毎日の電力使用量をきめ細かく管理しながら抑制するためには、コンピュータを使ったBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)が最も有効な手段になる。
[石田雅也,スマートジャパン]

本連載の第2回では、企業の電気料金を引き下げるうえで電力使用量の最大値(ピーク)を抑えることが重要なこと、そしてピークを制御する装置として「デマンドコントローラ」の導入が効果的であることを説明した。さらに節電対策を徹底するために、ピークの抑制だけではなく毎日の電力使用量を継続して削減する目的で、BEMS(ビル向けエネルギー管理システム)を導入する企業が増えている。実際にはBEMSの中にデマンドコントローラを組み込んで使うケースが多く、ピークの抑制と電力使用量の削減を合わせて実施できるようになる。

BEMSは経理や販売など通常の業務に使うコンピュータシステムと同様に、各部門のパソコンとシステム部門が運用するサーバの組み合わせで構成する。ただし最近は自社でサーバを持たずにITベンダーのサーバを活用する「クラウド型」が増えており、BEMSでもクラウド型のシステム構成が一般的になってきた(図1)。

ALT図1 BEMSの一般的な構成例。ITベンダーなどが「BEMSアグリゲータ」としてクラウド型のサービスを提供

BEMSの基本は「電力見える化」と「電力制御」

BEMSを使って電気料金を削減する方法を理解するために、具体的にBEMSの中身を見てみよう。BEMSの構成要素は企業の規模や業種などによって変わってくるが、標準的に必要とされる機能と設備は図2のように集約できる。これは2012年4月から始まった経済産業省のBEMS補助金制度で規定されている機能をもとにまとめたものである。

ALT図2 BEMSに必要な機能と設備。BEMSアグリゲータによるクラウド型のサービスを前提にした場合

まずBEMSを導入する企業側で必要な機能は大きく分類すると2つある。電力の使用量を計測してグラフなどで表示する「電力見える化」と、電力の使用量に応じて電気機器のオン/オフなどをコントロールする「電力制御」である。このうち電力制御用の装置として最も多く使われているのがデマンドコントローラだ。

もう一方の電力見える化に必要な設備としては、オフィスで使われているパソコンや通信用のルーターのほかに、空調や照明など電気機器の電力使用量を計測するための電力センサーが欠かせない。そして電力センサーからのデータをもとにパソコンの画面に電力使用量のグラフなどを表示する「電力見える化」のソフトウエアを実装する(図3)。

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ALT図3 「電力見える化」の例。出典:パナソニック

あとは電力使用量のデータをアグリゲータのサーバに自動的に送るように設定しておくと、過去の使用実績や同種の企業のデータと比較して、節電対策のための「課題抽出」や「診断」といったサービスを受けることができる。

小規模なオフィスで初期導入費は100万円程度

このようなBEMSの機能を活用することで、どのくらいの節電効果を期待できるのか。企業にある各種の電気設備の稼働状況は業種によって大きく変わるため、一概には言えないが、少なくとも電力使用量を10%は削減できると考えてよい。というのも、BEMSの補助金制度において、電力使用量を10%以上削減することが必須条件になっているからだ。アグリゲータはBEMSのサービスを提供するうえで「10%削減」を必ずクリアしなくてはならない。

残る検討課題は、BEMSに必要な設備の導入と導入後の運用にかかるコストである。この点でも経済産業省の補助金制度に伴って公表された情報が参考になる。補助金の対象になるアグリゲータ各社の製品に関して、初期導入費(工事費を含む)と月額利用料がモデルケースで示されている(図4)。

ALT図4 経済産業省のBEMS補助金制度の対象になるアグリゲータ21社の製品と価格

各社の価格は提供機能や導入企業の規模によって違いがあるが、ざっくりと以下のようなコストを想定するのが現実的だろう。

  • 小規模なオフィスや店舗(空調機器が3系統以内):初期100万~200万円、年間5万~10万円
  • 中規模なオフィスや店舗、小規模な工場(同10系統以内):初期200万~400万円、年間10万~20万円
  • 大規模なオフィスや店舗、中規模な工場(同50系統以内):初期400万~800万円、年間20万~40万円

もちろん上記のコストは一般的な導入事例を前提にしたものであり、実際には電気機器の設置状況などをもとにアグリゲータに見積もってもらって初めて分かる。あくまでも参考値としてとらえていただきたい。

導入3年目からコスト削減効果

一方、実際の電気料金は小規模なオフィスや店舗の場合で、年間500万円から1000万円程度かかっているケースが標準的と考えられる。かりにBEMSの初期導入費が100万円、導入前の電気料金が年間500万円とすると、BEMSで電気料金の10%(50万円)を削減できれば、最初の2年間で初期導入費を回収できる。あとはBEMSの年間利用料を5万円として、導入3年目からは電気代の削減額がBEMSの利用料を大幅に上回り、その差額分がコスト削減になる。

BEMSに関しては経済産業省をはじめ地方自治体でも補助金制度を実施しており、補助金を活用すれば初期導入費を半分程度に減らすことができるが、補助金を受けられない場合でも、企業が電力を安く使うためにBEMSは十分な効果を発揮するだろう。

さらにBEMSの機能を拡張すれば、蓄電装置や発電装置を組み合わせて、電力をよりいっそう有効に活用することが可能になる。企業内で蓄電装置や発電装置を導入すれば、夜間の安い電力を蓄電装置に貯めて昼間に使ったり、太陽電池などによる自家発電の電力を優先的に使ったりすることができる。

蓄電装置や発電装置からの電力供給量と実際の電力使用量をBEMSがコントロールすることによって、電力会社から購入する電力を最小限に抑えることができ、状況によっては電力を売ることも可能だ。これが現時点で最も進んだ節電対策である。