月別アーカイブ: 2012年4月

電力を安く使うための基礎知識(2)

節電を1台でこなす、デマンドコントローラ
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1204/25/news040.html
企業が電力会社に支払う電気料金は、30分ごとに計測される電力使用量の最大値によって変動する。その最大値を抑えるための装置が「デマンドコントローラ」で、電気料金を引き下げるための有効な手段として注目を集めている。
[石田雅也,スマートジャパン]

 

本連載の第1回では、電気料金の基本的な仕組みを説明するとともに、電力会社が提供する料金メニューを見ながら、電気代を下げるためのポイントを解説した。単に電力の使用量を減らすだけではコスト削減策として不十分で、電力使用量の最大値(ピーク)を抑えることが極めて重要になる。ピークを制御する装置として、一般的に使われているのが「デマンドコントローラ」である。

ALT図1 デマンドコントローラの外観。小型の製品は横幅20cm程度、重さも1kg程度。出典:大崎電気工業

通常のデマンドコントローラは図1のような形状をしており、現状の電力使用量のほかに、月間のピークの実績値と目標値、さらに年間のピークの実績値と目標値などを表示することができる。

あらかじめ設定した目標値を超えそうな状況になる(一定比率を超える)と、警報ランプが点灯したり、あるいは事前に決められた優先順位に基づいて電気機器に電力を送ることを止めたりする機能を備えている。

デマンドコントローラで30分単位のピークを制御

前回に説明したように、「高圧」と呼ばれる企業向けの電力契約では、電力量計(電力メーター)によって30分単位に測定されたピークで基本料金が決まる。契約電力が小さい「高圧小口」(50kW以上500kW未満)では、直近1年間のピークが基本料金の基準になるため、30分間だけでも過大な電力を使ってしまうと、それをベースにした高い基本料金を払い続けなければならない(図2)。

ALT図2 企業向けの基本料金は直近1年間のピークで決まる(契約電力が50kW以上500kW未満の場合)。出典:東京電力

一方、より契約電力が大きい「高圧大口」や「特別高圧」など規模の大きいビルや工場向けの場合には、電力会社との契約で「最大需要電力」と呼ぶ使用量のピークを決める必要がある。そのピークを超えて電力を使うと「契約超過金」をとられることになっていて、超過した電力に対して1.5倍の電気代が徴収される。

いずれの場合も、毎日のピークを30分単位で抑制することが、毎月の電気代と年間の電気代を大幅に下げることにつながる(図3、図4)。

ALT図3 デマンドコントローラで毎月ピークの目標値を超えないようにすれば、より低い基本料金を継続することができる。出典:東京電力
ALT図4 ピークは毎日30分単位で測定されるため、常に30分単位で目標値を超えないようにする必要がある。出典:東京電力

導入コストは平均100万から150万円程度

では実際にデマンドコントローラを導入すると、どのくらいのコストがかかるのだろうか。小型のデマンドコントローラであれば、本体は20万円から30万円程度で購入することができる。ただし電力量計や各種の電気機器(照明、空調など)との接続工事が必要になるため(図5)、その工事費を見込んでおかなくてはならない。接続する電気機器の数にもよるが、工事費を含めた導入コストは安い場合で50万円程度、通常は100万円から150万円程度かかると言われている。

ALT図5 デマンドコントローラの設置形態。出典:東京電力

これだけのコスト負担に見合う電気料金を削減できるかどうかは、現状の電力使用傾向をもとに、デマンドコントローラの販売会社や電気工事会社から見積もりを出してもらって判断するのが一般的である。

デマンドコントローラを扱う会社の中には「ESCO(Energy Service COmpany」と呼ぶ形態のサービスを提供しているところもあり、実際に削減できた電気料金をもとに成功報酬型で費用を決める方式をとる。ESCOの場合は初期導入コストを低く抑えることができる半面、電気料金の削減効果が小さくなる。

最近はデマンドコントローラでオフィスや工場全体のピークを抑えるだけではなく、電気機器ごとの電力使用量を“見える化”して、より緻密な節電対策を実施する取り組みも広がりつつある。いわゆるBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)を使った節電対策だ。次回はデマンドコントローラを組み込んだBEMSについて解説する。

電力を安く使うための基礎知識(1)

最近まで多くの企業では、電気代は事業運営に不可欠な“必要経費”との認識が強かった。しかし今後の電力事情を考えると、電気料金は継続的に値上げされていく可能性がある。電力を安く有効に活用するための基本的な問題をシリーズで解説する。
[石田雅也,スマートジャパン]

電力を安く利用するためには当然ながら、電気料金がどのように計算されるかを理解しておく必要がある。東京電力をはじめ全国に10社ある地域電力会社の電気料金の計算方法を見ると、ほぼ共通に作られている。個別のメニューには細かな違いがあるものの、基本的な計算方法は変わらない。契約電力(使える電力の最大値)で決まる「基本料金」と、毎月の使用量によって変動する「電力量料金」の2本立てで課金される仕組みである(図1)。

このほかに金額は小さいが、再生可能エネルギーを促進するための付加金が加わる。一般企業が太陽光発電などによって作り出した再生可能エネルギーを電力会社が買い取ることを法律で義務付けているため、その分の追加コストが上乗せされる。7月からは買取価格が固定されて、電力会社が買い取る量は大幅に増える見込みであることから、この付加金も高くなっていく方向だ。

ALT図1 電気料金の計算方法。月額固定の「基本料金」と毎月の使用量に応じた「電力量料金」で決まる。出典:東京電力

電気料金の仕組みを理解するうえで、もうひとつ重要なことがある。電力会社と契約する際の電力や供給電圧の大きさによって、料金体系や利用条件に違いがある点だ。大規模な工場やビルで使われる「特別高圧」から、町工場や店舗で使われる「低圧」までの4段階に分かれている(図2)。さらに工場向けの「産業用」と一般向けの「業務用」で料金体系が違う。業務用は平日の昼間に多くの電力を使う企業向けのメニューである。

ALT図2 電力会社との契約は電力や供給電圧によって4段階に分けられている。「低圧」の場合には、電力会社以外から電力を買うことはできない

一般家庭向けは電力の小さい低圧の中でも「電灯」と呼ぶ契約タイプになり、家庭内に設置されたブレーカの「アンペア数」で基本料金が決まる。ブレーカのアンペア数で基本料金が決まるのは「電灯」だけだが、企業向けの場合でも基本料金の算定基準の原則は同じだ。使用する電力の最大値、つまり「ピーク」によって決まる。

家庭向けの「電灯」の場合は契約したアンペア数を超えるとブレーカが落ちるため、ピークは一定に抑えられるが、企業向けの契約ではピークが制限されない。一時的にでも大量の電力を使うと、そのピークが基本料金の算定基準になる。

ピークを抑えるだけで電気代は下がる

この点で特に注意が必要なのは、小規模な工場やビルで使われることが多い「高圧小口」の場合だ。契約電力が50kW以上500kW未満で、全国で70万件以上の契約が結ばれており、対象になる企業や事業所は数多くある。

高圧小口の契約では、電力メーターによって30分ごとの電力使用量が記録され、その最大値(ピーク)で基本料金が決まる仕組みになっている。図3は東京電力がウェブサイトに掲載している説明用のグラフである。各月の電力使用量は1か月間の合計値ではなくて、30分単位で計測した数値のピークを表している。1か月のうちのわずか30分間だけ大量の電力を使った場合でも、そのピーク値が基本料金に適用されてしまう。

ALT図3 「高圧小口」の場合だけ適用される契約電力の算定基準。過去1年間における30分単位の最大使用量によって毎月の基本料金が決まる。出典:東京電力

例えば通常は100kW程度の電力を使っていて、一時的に150kWの電力を使うことがあると、契約電力は150kWに設定される。その後の毎月のピークが100kW程度だったとしても、12か月間は契約電力が150kWに設定されるため、150kW分の基本料金を払い続けなくてはならない。

高圧の基本料金は通常1kWあたり1500円程度に設定されている。契約電力が50kW増えたり減ったりすれば、月額で7万5000円、年間で90万円も違ってくる。東京電力の試算では、中小規模のスーパーや事務所で契約電力が150kWの場合に、年間の電気料金は約876万円になる(月間使用量を3万3000kW時と想定、2012年4月からの料金改定後)。ピークを抑えることで契約電力を100kWに下げることができれば、電気代を10%以上削減できる計算だ。

直近12か月間における30分単位のピークが契約電力になり、基本料金が決まるため、ピークを可能な限り低く抑えることが電気代を安くするうえで有効になる。ピークを抑える手段としては、「デマンドコントローラ」と呼ぶ監視・制御装置を使う方法が現在のところ一般的だ(デマンドコントローラに関しては次回以降の本連載で説明する)。

季節や時間帯による特別料金を活用

基本料金の削減に続いて、もう一方の「電力量料金」を削減する方法を考えてみよう。

電力は夏のあいだ、特に午後の早い時間帯に最も多く使われる。いま懸念されている電力不足の問題を解消するためには、夏の昼間のピークを抑えなくてはならない。そこで各電力会社は、季節や時間帯によって電気料金の単価を変動させるメニューを打ち出している。単価に実際の使用量を掛け合わせて「電力量料金」が計算されるため、単価の安い時間帯に電力を使うようにすれば、電気代を引き下げる有効な手段になる。

東京電力の「高圧季節別時間帯別電力」という契約タイプを例にとると、年間を通じて昼間(8時~22時)の料金単価が通常の契約よりも高くなる代わりに、夜間(22時~8時)の単価は大幅に低くなる(図4)。さらに夏季(7月~9月)はピークの時間帯(13時~16時)の単価が高くなる設定だ。

ALT図4 季節や時間帯によって単価が変動する電力契約の例。出典:東京電力

実際に料金単価がどのくらい変動するのかを、東北電力がウェブサイトに掲載している料金表で具体的に見てみる。一般企業向けの通常の契約でも、夏季の料金単価は高く設定している(図5a)。東北電力は約9%を上乗せしており、ほかの電力会社も同程度である(北海道電力は夏季料金を設定していない)。

これに対して「季節別時間帯別」の契約では、4段階の料金単価が設定されている(図5b)。最も安い夜間の単価は、昼間のピーク時間の単価の半分以下になる。通常の契約で適用される単価(図5a)と比べても33~38%も安い。ただし夜間以外の単価は通常契約よりも17~27%高くなる。

ALT図5a 東北電力の「高圧業務用電力」の料金単価
ALT図5b 東北電力の「高圧業務用季節別時間帯別電力」の料金単価

「ピークカット」や「ピークシフト」が必要

このように季節や時間帯によって単価が変動する電力を活用するためには、電力使用量のピークを抑える「ピークカット」や、ピークを単価の安い時間帯にずらす「ピークシフト」の対策を講じる必要がある。エアコンの運転方法を工夫するなどの節電対策のほかに、電力使用量をきめ細かく管理して電気機器を自動制御するBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)を導入する企業が最近は増えてきた。

単価の安い夜間の電力を蓄電池に貯めておいて、使用量が増える昼間に蓄電池から電力を供給する方法も有効である。太陽光などの自家発電設備によって、昼間の時間帯の電力を補給する取り組みも全国で広がりつつある。

自家発電設備と蓄電池を導入して、そのうえでBEMSを使って最適な電力使用状況を常に作り出すことができれば、ピークカットやピークシフトによる電気料金の削減額は大きくなる。各装置の導入コストと電気料金の削減額のバランスを見て、自社に合った設備を早めに導入することが望ましい。