「持たない」ビジネス 儲けのカラクリ/金子哲雄

2012年10月2日、41歳の若さでなくなった金子哲雄さんの遺作。たぶん、最後から2番目の作品ではないかと思う。テレビで活躍されていたお姿は知っていたのですが、あまりにも早すぎる訃報にたいへん驚きました。謹んで、お悔やみを申し上げます。

さて、この本は、個人も企業も「資産を持つ」ことがリスクになる時代がやってきた、をテーマに書かれています。金子さんは、資産を保有しないで生活したり、事業を進めるべきだとこの本の中で説いています。わたしも、基本的には同意できる点は多々あります。

でも、すべての個人が資産を持たない、すべての企業が保有しないで成り立つのでしょうか。今後やっていけるのでしょうか。仮に「保有時代」が終わったと仮定した場合、個人や企業はどうして行けばいいのでしょうか。このような素朴な疑問が、私の中にあり、それに対する答えは本書には見当たりませんでした。というか、私には見つけることができませんでした、というのが正しいのかもしれない。

「持たない経営の進化は、私たちを幸せにするのか?」-あとがきにかえて。金子さん自らがお持ちになった疑問です。

私は、持たない経営の進化は、私たちを幸せにするかという問いに対して、しないと思います。極論から言うと、誰も保有しないとなると、資産や人材は誰が持つのかという疑問があります。必ず誰かがまたはどこかの企業が保有し、責任を持ち、リスクをとることになると思います。それが普通だと思います。効率や経済性だけを追求すれば、持たないという仮説は成り立ちますが、実際に実現するのは困難だと思います。

また、人材をコストととして捉え、正社員を省きアルバイトやパート職員でしのぐ今の方法は、一時的には企業にとって利益を生むかもしれませんが、大きな流れとして悪循環になっていると思います。個々の人々が安心して生活できるから経済が発展するのではないでしょうか。ある企業だけ繁栄し、そこの正社員だけ豊かな生活ができても、大多数の人が豊かでなければ、その企業も継続して利益を上げることはできないと思います。

経済がデフレスパイラルに入っていて、景気回復の兆しが見えない今、もう一度雇用についてしっかりと見直す時期に来ていると思います。継続した安定・安心な雇用があって、はじめて経済が継続して動くのです。人件費をコストとして捉え、いかにコストを下げるのが企業の競争力強化につながるという考え方は、人件費には成り立たないと思います。

 

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